何をやってもできない子。自分を下げて、目立たないように生きるんだよ。
漫画家の細川貂々(てんてん)さん(53)は、母親にそう言われて育った。絵のコンクールで入賞しても、ほめられたことはない。
集団行動が苦手で、幼稚園の昼寝の時間が嫌い。「なぜみんなでお昼寝しなきゃならないの?」と思っていた。
行進の時間は怖かった。そろって歩けず、先生に怒られた。
漫画家になり、夫の闘病を描いた「ツレがうつになりまして。」が大ヒットしても、母親には「そんな目立つことをして」と言われた。
どうせ私は――。何をするにも、一歩を踏み出すのが怖い。電車でひとり遠出するのも緊張した。
36歳で初の一人旅 「寿美礼さんが私を成長させてくれた」
2005年の暮れ、編集者に「宝塚歌劇を見に行きませんか」と誘われた。「場違いなやつだと思われるのでは」と不安を感じたが、意を決して年明けに東京・有楽町の劇場に行った。席は2階の一番後ろ。ファンに囲まれず、ホッとした。
幕が開いた。花組トップスターの春野寿美礼(すみれ)さんの登場だ。
ああっ!
そこだけ電気がついたように…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル